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福島地方裁判所 昭和47年(ワ)188号 判決

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

(一)  原告が、被告の従業員として雇用契約上の権利を有することを確認する。

(二)  被告は、原告に対し昭和四七年二月二四日以降毎月二八日に月額金七万六三二〇円の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  被告は、一般乗用旅客の運送を目的とする所謂タクシー会社であり、原告は、昭和四五年八月三日被告にタクシー運転手として雇用されたものである。

(二)  被告は、昭和四七年二月二四日以降原告との雇用関係を争い、原告の就労を拒んでいる。

(三)  原告の昭和四七年二月当時における賃金は、月額金七万六三二〇円を下らず、毎月二八日がその支給日であつた。

(四)  よつて、原告は、原告が被告の従業員として雇用契約上の権利を有することの確認と、被告が原告に対し昭和四七年二月二四日以降毎月二八日に月額金七万六三二〇円の割合による賃金を支払うこととを求める。

二  請求原因に対する答弁

請求原因(一)・(二)の事実は認め、同(三)のうち、賃金の月額を争う。

三  抗弁

原・被告間の雇用契約は、次のとおり解雇によつて消滅した。

(一)  懲戒解雇

1 解雇の意思表示

被告は、昭和四七年二月二三日原告に対して、同日限り懲戒解雇する旨の意思表示をした。

2 解雇の理由

(1) 原告は、昭和四七年二月九日午後九時半ころから同一一時半ころまで福島市内の簡易料理店「奴」で同僚の運転手・Aと共に飲酒したが、更に飲み直すため、飲酒運転を承知でAにその自家用車を運転させ、「奴」のホステス・Bと共に同乗して飯坂へ向い、折返し福島へ戻ろうとした。ところが、その途中、同月一〇日午前一時半ころ石堂交差点において、Aが徐行のうえ左右道路の安全を確認すべき注意義務を怠つたために、折から右方より同交差点を通過しようとしたC運転にかかる貨物自動車の左後輪に自車の右前部を衝突させ、同乗のBに対し加療約二週間を要する顔面打撲・頚椎捻挫の傷害を負わせてしまつた。それなのに、原告はAと意を通じて、Bを救護せず、警察への事故報告もせずに逃走した。

このように原告は、Aの飲酒運転をそそのかし、衝突による人身事故を誘発させたものである。

(2) 被告は、タクシー会社であり、常に従業員に対し交通安全教育を厳重に行つていたもので、このまま原告を放置するならば、他の従業員に対する悪影響ひいては職場規律維持に支障が生じ、被告の信用を低下させるおそれがある。

(3) そこで、被告は、原告を含む従業員が加入している全福島ハイヤータクシー労働組合(以下「組合」という。)との労働協約(以下「協約」という。その抜萃、別紙のとおりである。)第二二条により被告の就業規則(以下「規則」という。その抜萃は、別紙のとおりである。)第四八条第一〇号を準用して、原告を懲戒解雇にした。

3 解雇の手続

被告は、右懲戒解雇にあたり、(1)昭和四七年二月一五日、協約第二二条但書に基づいて組合の意見を聞き、(2)同月二三日、協約第二五条第一項但書に基づいて福島労働基準監督署長による解雇予告の除外認定を受けた。

(二)  普通解雇

かりに、(一)2(3)の理由による懲戒解雇が許されたいとしても、(一)1の懲戒解雇の意思表示には、

1 協約第二四条第三号(懲戒解雇自由がある場合でも、普通解雇ができる趣旨に解すべきである。)・第二五条第一項但書による即時解雇の意思表示

2 かりに、1が理由ないとしても、協約第二四条第三号・第二五条第一項本文による予告解雇の意思表示(その効力は、三〇日の予告期間の経過により生ずる。)が含まれるものである。

四  抗弁に対する答弁

(一)  抗弁(一)について、

1の事実は、認める。

2につき、

(1)のうち、被告主張の日時・場所においてA運転の自家用車とC運転の貨物自動車とが接触したことは認め、その余の事実を否認する。

(2)の事実は、被告がタクシー会社であることを除き、否認する。

(3)のうち、原告の行為が協約第二二条・規則第四八条第一〇号に該当することは争い、その余の事実を認める。

3のうち、(1)の事実を否認し、(2)の事実は不知。

(二)  同(二)は、争う。

五  再抗弁

(一)  不当労働行為

1 原告は、被告の従業員をもつて組織されている組合笹谷支部の支部長の任にあつたものであり、次に述べるとおり積極的に組合活動を続けていた。

(1) 昭和四六年一一月ころ、組合員である同僚の運転手・Dが、業務中国鉄の踏切で事故を起し、被告から解雇の通告を受けたことがあつた。そこで、原告は、タクシー運転手が過失による事故を理由として簡単に解雇されるようでは、労働者の生活の安定がないとして、右解雇の撤回運動を起し、これに成功した。

(2) 同年一二月ころ、被告のE専務が従業員に対し、人権無視の横暴な業務命令を出し暴言を吐くなどして、職場を暗くし労働条件を悪化させていた。そこで、原告は、組合の先頭に立つてE専務の退陣を要求し、団体交渉をした結果、組合と被告との間で、E専務の言動については社長が責任をもち、今後暴言等のあつたときは社長の権限で退陣させる・今後の労使問の問題については支部役員を通じて話合う・労使一体となつて明るい職場をつくる努力をする旨の協定書をとり交すことに成功した。

2 被告は、右のように組合活動を続ける原告を嫌悪し、組合を弱体化するために原告を解雇したのであるから、本件解雇は、不当労働行為として無効である。

(二)  解雇権の濫用

本件解雇は、権利濫用として無効である。

六  再抗弁に対する答弁

(一)  再抗弁(一)について、

1につき、原告が組合笹谷支部の支部長であつたこと、(1)のうちDの踏切事故・解雇通告とその撤回の事実、(2)のうち原告主張の協定書がとり交されたことは、認めるが、その余の事実を否認する。

2の事実は、否認する。

(二)  同(二)は、争う。

第三証拠(省略)

理由

一  請求原因(一)・(二)の事実、被告主張の協約および規則の存在、被告が昭和四七年二月二三日原告を懲戒解雇にしたことは、当事者間に争いがない。

二  右懲戒解雇に至る経緯につき、成立に争いのない乙第一号証の一ないし八・一○ないし一二・一五、第二号証の二、第三号証、証人Eの証言とこれにより真正に成立したと認める乙第二号証の一、証人Bの証言とこれにより真正に成立したと認める乙第五号証、証人Aの証言、同証言と弁護士・大学一の印影の成立に争いがないこととにより真正に成立したと認める甲第一号証、証人Fの証言およぴ原告本人尋問の結果によれば、次の事実(その中には、前記事実欄に摘示のとおり争いない事実がある。)を認めることができ、右甲第一号証、乙第一号証の七・八・一一・一五の各記載、証人Aの証言および原告本入尋問の結果中、右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(一)  昭和四七年二月九日午後七時半すぎころ、被告の従業員(運転手)であるAがその自家用車(軽四輪乗用自動車)を運転し、Fと共に原告方を訪問した。当時、Aは、試用期間中であつたが、近く本採用となり組合に加入する予定だつたので、組合笹谷支部長をしていた原告のもとへ挨拶に出向いたものであり、Fは、同支部の副支部長をしていた。原告方では、三人で約五合ほど飲酒したが、三人とも勤務終了後であつたので、更に福島へ飲みに出ようということになつた。原告は、Aが自動車を運転して来訪したことを、当初から知つていた。

(二)  三人は、A運転の自家用車で福島市<以下略>の簡易料理店「奴」へ出向いた。同店を選んだのは、原告が他の二人を奢るつもりで、付けの利く同店へ行くように指示したからである。同店では、同日午後九時すぎころから看板の同一一時半すぎころまで銚子二五本を飲酒したのであるが、Fは三〇分位で帰り、あまり飲んでいなかつたので、その大半は、原告とAの二人で飲酒したものであり、原告は、Aに対し先輩格で杯をすすめ、献酬を交すなど積極的に飲酒をすすめた。そして、看板後、更に飯坂で飲み直すことになつたが、そのために、Aが後述のように飲酒運転することを、原告は、承知のうえで能動的に加わつたものである。

(三)  そこで、Aがその自家用車を運転し、助手席に「奴」のホステス・Bを同乗させ、後部座席に原告が乗車して飯坂へ向い、スナツク「泉」に立ち寄つたのであるが、折返し福島へ戻ることとなり、前同様Aが運転して帰途についた。その間、Aは、かなりのスピードを出し、同乗のBが前後左右にゆれるため恐いと感じたほどであり、明らかに酔のため正常な運転ができない状態にあつたけれども、原告は、これを制止せずなすがままに容認し、後記事故時には後部座席で仮眠していた。

Aは、終始後輩として原告を立てる態度で行動していたから、原告は、これまでに述べたAの飲酒および酒酔運転につき、先輩として能動的に加担したものと認めざるをえない。

(四)  かくて、同月一〇日午前一時半ころ、Aは、その自家用車を運転して福島市<以下略>先石堂交差点に差しかかったところ、折から右方より同交差点を通過しようとしていたCの運転する普通貨物自動車の左後輪に自車の右前部を衝突させ、同乗のBに対し加療約二週間を要する顔面打撲・頚椎捻挫の傷害を負わせてしまった。しかし、Aは、そのまま逃走して警察へ事故の報告をせず、原告もまた、事故のシヨツクで目を覚ましたがそのまま放任し、後刻相手車運転のCに会った際、同人に対し警察へ事故の報告をしないように頼んだ。

右事故は、Aにおいて、右交差点の信号機が黄色の点滅信号を示していたので、同交差点の直前で徐行し左右道路の安全を確認して進行すべき注意義務があるにもかかわらず、飲酒の影響でこれを怠った過失により惹起されたものである。Aは、その後、右事故の責任をとって任意退職したが、更に、右業務上過失傷害被告事件につき、同年六月一五日福島簡易裁判所において罰金二万円に処された。

(五)  被告は、原告の右所為につき規則第四八条第一〇号を準用して懲戒解雇にすべきものと考え、協約第二二条但書に基づいて、同年二月一一日組合の意見を求めると共に、協約第二五条第一項但書に基づいて、同月一四日福島労働基準監督署長に対し解雇予告除外認定の申請書を提出した。

組合では、G書記長が笹谷支部の役員とも協議のうえ、同月一一日被告に対し原告の解雇に反対の意見を伝えたが、同月一三日に開催された笹谷支部の臨時大会において、圧倒的多数により原告の解雇に反対せず原告を支援しない旨の決議がなされ、原告は支部長を解任され、新たに支部役員が選出されるに至ったので、G書記長は、被告と団交をもち、被告から退職金七万円で原告を任意退職させてもよい旨の返答を得た。そこで、原告も、同月一四日被告に対し退職願を提出したところ、翌一五日の笹谷支部臨時大会において、原告に退職金を支給することに反対し、その旨を会社に申入れる旨の決議がなされたので、原告は、右退職願を撤回するに至った。

かくて、被告は、前記除外認定申請の結果を待っていたところ、同月二三日右認定を得たので、即日原告を懲戒解雇したものである。

三  ここで、懲戒解雇に関する協約および規則の規定について検討する。

(一)  協約第二二条本文によれば、「懲戒に関しては就業規則に依る」ものとされているので、懲戒解雇事由については、規則第四八条の規定によることとなる。ところで、協約第二四条は、「組合員が懲戒解雇の処分をうけたときは解雇する」旨規定しているが、その趣旨は、懲戒解雇事由があるときは、懲戒解雇の形式で解雇する・つまり懲戒解雇も解雇の一種であることを確認したものと解される(更に、懲戒解雇事由があるときでも普通解雇ができる趣旨をも含むかどうか、についてはさておく。)。

したがつて、懲戒解雇の手続(規則第四七条第七号をも参照)としては、協約第二二条但書によつて組合の音見を得るのみならず、協約第二五条に従い、予め組合と協議の上組合員に通知し、行政官庁の除外認定を得た場合は即時解雇する、ということになるわけである。

(二)  規則第四八条第一〇号は、単に「酒気をおびて自動車を運転したとき」と定めているが、右事由は、職務遂行に関係のある場合だけではなく、職場外の職務遂行に関係のない酒気おび運転であつても、それが企業秩序に影響するとか、企業の社会的評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められる場合には、これをも含む趣旨と解すべきである(最高裁判所昭和四九年二月二八日第一小法廷判決・民集第二八巻第一号六六頁参照)。

(三)  規則第四八条第一〇号を準用して、懲戒解雇事由とすることができるであろうか。

思うに、使用者が従業員に対して課する懲戒は、広く企業秩序を維持確保し、もつて企業の円滑な運営を可能ならしめるため一種の制裁罰であるから(前掲最高裁判所判決参照)、使用者が就業規則に懲戒事由を規定するのは、右固有の懲戒権の行使を自律的に制約することにほかならない。また、就業規則に懲戒事由を規定すれば、恣意的な懲戒権の行使が妨げられ、従業員の地位を保障する機能を果すものである。したがつて、右懲戒事由の規定については、それが使用者の自己抑制であることに鑑み、従業員の保護をも考慮して、合理的に解釈すべきものと考える。

ところで、本件において、規則中に第四八条に掲げる事由が限定列挙である旨・つまり右事由による場合のほか懲戒を受けることはない旨を明示した規定はない(ちなみに、譴責・減給・乗務停止・出勤停止については、その内容に関する規定があるのみで、それに応じた懲戒事由を明示した規定がなく、規則第四八条自体に誤植等の存することは、別紙のとおりである。

本件就業規則の規定に不備があることを物語るものといえよう。)。また、世上、就業規則においては、懲戒事由を列挙した末尾に「その他前各号に準ずる事由」のごとき概括的規定をおいているのが通例であるが(本規則において、何故に右のような概括的規定を欠くのか、その間の経緯は明らかでない。)、とのような概括的規定は、従業員の保護を考慮し、違反の類型および程度において列挙事由と客観的に相応するものでなければならないものと考えられる。以上の点を考慮のうえ、タクシー営業という被告の企業の特殊性を斟酌するならば、懲戒解雇事由として規則第四八条第一〇号を準用することは、先に説示した合理的解釈の範囲を超えないものとして許されるところというべきである。

(四)  規則第四八条によれば、所定の懲戒解雇事由に該当する場合でも、情状によって減俸又は懲戒休職にすることができる(つまり懲戒解雇が原則である)旨規定されているが、懲戒解雇は、従業員の地位喪失とい重大な結果を招来し、特に慎重な配慮を要するものであるから、右規定は、情状の重いときに懲戒解雇ができるとの趣旨を含むものと解すべきである。ところで、右懲戒の種類選択に関する具体的基準の定めは、規則中に存しないから、右選択については、懲戒権者の裁量が許されるものというべく、その裁量は、恣意…にわたることをえず、当該違反事由との対比において甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものであってはならないと解すべきである(前掲最高裁判所判決参照)。

四  進んで、本件懲戒解雇の効力について判断する。

(一)  懲戒解雇事由は、存在する。

前記二(一)ないし(四)で認定した原告の所為は、規則第四八条第一〇号の事由に直接該当するものではない。

しかし、前叙Aの所為が右懲戒事由に該当するととは明らかであり、原告は、右認定のように、Aがその自家用車を運転することを知りながら、積極的に飲酒をすすめ同乗する等右Aの酒気おび運転に加担したものであるから、いわば酒気おび運転の共犯ともいうべき所為と認めることができる。また、右原告およびAの所為は、職場外でなされた職務遂行に関係のないものではあるが、両名の職種(運転手)および被告の企業(タクシー営業)の特殊性に鑑み、被告の企業秩序に影響を及ぼし、被告の社会的評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められるものといわなければならない。したがつて、右原告の所為は、前記三(二)(三)の説示に従い、規則第四八条第一〇号の準用による懲戒解雇事由に該当するものである。

(二)  懲戒解雇の選択は、相当である。

原告の本件所為は、その態様において、長時間にわたりAと多量の飲酒をし、終始Aと行動を共にして、先輩でありながらその酒気おぴ運転に積極的に加担し、ひいては人身事故を誘発したものであり、事故後の措置もよろしきをえたものではない。とくに、原告は、タクシー営業に従事する運転手であつたから、右所為が職場外でなされた職務遂行に関係のないものであつたことを勘案しても、その情状は、決して軽いものではたいというべく、右原告の所為が同僚に与えたであろうシヨツクの程も、前記二(五)で認定した経緯から窺い知ることができ、無視することはできない。現に、Aは、任意退職してその責任をとつているのである。

以上の事情を考慮するならば、本件懲戒解雇は、前記三(四)で説示した裁量の範囲を超えるものではないというべきである。

(三)  懲戒解雇の手続は、履践されている。

前記二(五)で認定した事実によれば、前記三(一)で述べた懲戒解雇の手続が履践されたことは明らかである(そうである以上、右手続に関する協約の規定が、効力要件であろかどうかを判断する必要はない。)。

(四)  不当労働行為ではない。

前叙のように、原告は組合笹谷支部の支部長であつた。そして、原本の存在と成立につき争いのない甲第二号証の一・二、証人Eの証言および原告本人尋問の結果によれば、原告が再抗弁(一)1(1)(2)(E専務が人権無視の横暴な業務命令を出し労働条件を悪化させていたとの点を除く。)で主張の事実(その中には、前記事実欄に摘示のとおり争いない事実がある。)を認めることができる。しかし、これまでに述べてきた懲戒解雇の事由および手続等の経緯に照らすならば、右の事実だけから、本件懲戒解雇の決定的原因が原告主張のごとくその組合活動にあり、被告が組合の弱体化をはかつたものとは、とうてい認めることができず、他に、右不当労働行為の事実を窺わせる立証もない(現に、原告自身が本人尋問において、被告から原告の組合活動を具体的に妨害されたことはない旨を供述し、また、原告が事故後退職願を提出したこともあつたことは、前叙のとおりである。)。

(五)  懲戒解雇権の濫用ではない。

これまでに説示してきたところによれば、本件懲戒解雇をもつて権利の濫用といえないことは明らかというべく、他に、右濫用という原告の主張をなつとくさせるに足る立証もない。

(六)  以上のとおりであるから、本件懲戒解雇は有効というべく、これによつて、原・被告間の雇用契約は、昭和四七年二月二三日限り終了したものである。

五  よつて、その余の判断をするまでもなく、原告の本訴請求は、すべて失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のように判決する。

(別紙)

労働協約抜萃

(表彰懲戒)

第二十二条 表彰及び懲戒に関しては当杜就業規則に依るものとする。

但し、懲戒については組合の意見を得るものとする。

(解雇)

第二十四条 会杜は組合員が次の各号の一に該当したときは解雇する。

一、 本人が死亡したとき

二、 休職期間が満了となり復職しないとき。

三、 懲戒解雇の処分をうけたとき

四、 精神若しくは身体の故障又は虚弱、老衰、疾病等で医師の診断により業務にたえられないと認めたとき。

(解雇の予告)

第二十五条 会社は前条第三号第四号に該当する場合は三十日前に予告するか又は平均賃金三十日分の解雇手当を支給する。

但し、行政官庁の認定を得た場合はこの限りでない。

2 前項の予告日数は一日について平均賃金を支払つた場合はその日数を短縮することがある。

3 会社は前条第三号、第四号に該当する場合は予め組合と協議の上組合員に通知する。

就業規則抜萃

(懲戒の種類)

第四十七条 懲戒は次の各号としその一又は二以上を併科する。但し反則が軽微な者に対しては訓戒に止める事がある。

その決定は各種の情状を考慮して社長が決定する。

一 譴責 始末書をとり将来を戒める。

二 滅給 始末書をとり一回について平均賃金の半日分以内を減給し将来を戒める。

三 乗務停止 始末書をとり一定期間乗務を停止し教育をうけさせ、或いは指示した他の業務に従事させる。

四 出勤停止 始末書をとり十五日以内出勤を停止しその期間中は賃金を支給しない。

五 減俸 始末書をとり六ケ月以内減俸する。

六 懲戒休職 始末書をとり三ケ月以内の期間休職とする。

七 懲戒解雇 予告期間をおかず直ちに解雇し退職手当を支給しない。

(懲戒解雇)

第四十八条 一 従業員が次の各号の一に該当する場合は懲戒解雇する。

但し、情状によつて減俸、若しくは懲戒 とすることがある。

① 無断欠勤が多く又出勤不良で数回にわたり注意を受けても改めないとき

② 職務上の罪にとらわれた者で解雇することを適当と認めたとき

③ 刑事上知り得た会社の重大な秘密を社外にもらしたとき

④ 会社の金銭、物品を横領窃取したとき

⑤ 職務上の指令に不当に反抗し秩序を乱したとき

⑥ 故意又は重大たる過失により会社に損害を与えたとき

⑦ 乗客より不正な料金を収受横領したとき

⑧ 雇入の際採用条件の要素となるような経歴を詐称したとき

⑨ 許可なく会社の車輌を私用又は社外の者に貸与した時及び他に運転させたとき

⑩ 酒気をおびて自動車を運転したとき

⑪ 法令及び就業規則、労働協約の約定に反し、争議行為を行い又は行わせた時及許可なく組合活動若しくは政治活動を行ったとき

⑫ 料金メーター、タコメーター不正操作を行つたとき

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